List-MJの2つの体系(07/04/13 修正)

この目録は、目的によって使い分けるように、「大図鑑体系」「新体系」と名付けた二つの分類体系に沿って種名を整理してある。この2つの体系は独立したものであり、全ての種は両方のリストに載っている。

大図鑑体系

報告書などで日本で広く使われている体系である。井上ほかにより1982年に刊行された「日本産蛾類大図鑑」に従ったものである。大図鑑以後の変更は、Post-MJのリストで採用されたもののみを扱っている。なお、この体系はCommon(1970)による体系を一部修正したものである。

新体系

鱗翅目の上位分類は日々新しい提案がなされており、1990年代以降は大きな論文や専門書が多く出版されている。Post-MJ第2版(p. v-xi)では、大図鑑および最近のいくつかの体系が整理されている。この目録では、Kristensenら(1998)の「Handbook of Zoology」の鱗翅目編で採用された分類体系に従った「新体系」と名付けたリストを用意した。これまで、日本では大図鑑以外の体系を用いられることは少なかったが、海外の文献ではすでに新しい提案を受け入れているものが多いし、今後はより新しい体系に置き換わることになるだろう。

科名の中でカッコ書きのものは、文書などで発表されたことが無く、神保がこの目録で使用するために便宜上つけたものである。

どちらの体系を使えばいいのか?

私は、日本では一般に「大図鑑体系」が使われていること、「新体系」に基づく目録は私が便宜的に作成したもので印刷物として公表されたものではないことから、「大図鑑体系」が現在の日本の標準であると認識している。そのため、本目録で最初に表示されるページやWhat's New?での体系は「新体系」ではなく「大図鑑体系」のそれになっている。報告書ではこちらの使用を勧めている。

一方で、私は、「大図鑑体系」から「新体系」へ移行する過渡期であるという認識を持っている。その理由として、世界ではKristensenら(1998)による鱗翅類の概説書「Handbook of Zoology」に基づく分類体系およびその改変案が最もよく使われていること、現在刊行準備中の「日本昆虫目録」の鱗翅類編で「新体系」に近い体系が採用される予定であることがあげられる。また、ウェブサイトからの引用も普通になったので、本目録の引用も容易になった。そのため、「新体系」を今から利用するのも一つの選択肢となっている。「みんなで作る日本産蛾類図鑑」は、新体系の方を採用している。

(追記)昨年末に、KristensenらによってZootaxa誌に鱗翅類の系統および分類に関する大きなレビューが掲載された。この論文の最後には、現時点での知見に基づいた分類体系が掲載されている。いわゆる「新体系」の改訂版であり今後メインになると考えられる。ただし、後述する大きく変更されたヤガ上科の体系が採用されているため、List-MJをこの体系に移行するには日本産各種の適切な亜科の配置をチェックする必要があり、相当の時間がかかると思う。この論文はZootaxaのウェブサイトからダウンロードできる(論文ダウンロードはこちらから)。

キバガ上科とヤガ上科の扱いについて

ここで採用した「新体系」には、暫定的な処置が多く含まれている。特に、キバガ上科Gelechioideaとヤガ上科Noctuoideaでは、上位分類の新しい枠組みの策定をめざし、系統や分類に関する大きな論文が多く出ており、現在一つの分類体系を決めるのは困難な情勢である。

キバガ上科

キバガ上科では、「Handbook of Zoology」で、系統推定の結果に基づくまったく新しい体系が提案されている。しかし、この体系には批判も多く、その後に発表された複数の系統推定の結果はこれを支持していない。そこで、この目録では、よりclassicalではあるものの、海外の文献で使われることの多い体系を採用することとし、ヨーロッパの大変良い小蛾類の入門書で、キバガ上科に詳しい著者が書いたParentiの「A Guide to the Microlepidoptera of Europe」の体系を採用した。キバガ上科の上位分類の大きなプロジェクトも進行中であり、体系の変更はこのプロジェクト後に再検討することになるだろう。また、新体系のキバガは奥(2003)にならい「極東ロシアの昆虫」に従ったが対応不十分。Park & Ponomarenko (2007)が手元に届き次第検討の予定。

ヤガ上科

ヤガ上科、特にヤガ科の分類は、現在曲がり角に来ている。ヤガ科は多様性の高い巨大なグループであり、体系を整理するのは困難である。これまでは、Hampsonが提案した体系が使われてきた。この体系は、少数の形質の組み合わせで亜科を決めるもので、利便性は高いが進化の道筋を反映したものではない。1990年代以降、分子系統学の進化や、形態の詳細な比較により、post-Hampsonの体系の大成を目指して多くの論文が発表されている。このうち、「新体系」では、「Handbook of Zoology」を基礎とし、コブガ科はHolloway(1998)に沿って修正した体系を採用した。各属がどの亜科にはいるのかを包括的にまとめたリストは存在しないので、解説から神保が類推して用いている部分もある。最近では、これをさらに改善したFibiger & Lafontaine(2005)の体系が浸透しつつあるため、今後はこちらへ移行する必要がある。